このサイトは、警察庁に23年間勤めた弁護士による、コンプライアンス、リスク管理、反社会的勢力対策などの企業法務と犯罪被害者問題、児童ポルノ問題など放置されている様々な社会問題について発信するサイトです。


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保護者とともにある所在が不明の 子どもの捜索及び安全の確保に関する法律の制定を!!

「保護者とともに所在が不明の子どもの捜索及び安全の確保に関する法律」のを制定を!!
1 ・神奈川県で、当時6歳の山口あいりちゃんが、小学校にも通うことができないまま、母親と同居男性に殺害され、雑木林に遺棄されるという極めて痛ましい事件が発覚しました。本件では、あいもかわらず、関係する児童相談所、市の虐待担当部局、教育委員会、警察の対応のまずさ、特に、連携、情報共有のまずさが目立ちました。適切な情報共有とそれに基づく危機感の共有ができていれば、命が救えた可能性はあったと思います。
 本事案でまともな対応がなされたのは、秦野市が母親と連絡を取ろうと懸命に動き、神奈川県警察があいりちゃんを探すために全力で動き出してからです。神奈川県警察は茨城県のレンタルビデオ店をしらみつぶしに当たり、母親の居場所を突き止めたとされています。しかし、それまでは、これらの機関も含めて、情報共有と子どもの命が危険にさらされているという危機意識が全くない対応をしていたと言わざるを得ません。
 これら以外にも多々あるのですが、主なものとしては次のものがあげられます。

松戸市の教育委員会が未就学の児童がいることを把握しながら、転出先の秦野市に連絡していないことです。この時点で連絡があれば、秦野市がすばやく対応し、児童相談所、警察とも連携して働きかければ、殺害されるということにならなかった可能性があります。
次に、秦野市が転入してきた家族の中に、未就学児童がいないかどうか、確認しておけば、もっと早く対応できたと思いますが、そのような確認をせず、対応が後手後手に回ってしまったことです。また、秦野市の教育委員会は未就学の事実を知ってからも所在確認をせず、国民健康保険担当課が母親が市役所を訪問した際に虐待担当課に連絡せずそのまま返してしまうなど、子どもの安否を確認しようという真摯な対応が見受けられませんでした。
次に、横浜児童相談所が警察から虐待通告を受け、家庭訪問をしながら、その約2週間後にあいりちゃんが殺害されてしまいました。殺害される約1週間前に家庭訪問をし、母親と会えたわけですが、「あいりちゃんは、同居している男性と就学するための買い物に行っている」と言われてそのままにしてしまっています。子どもを学校に通わせていないということはその時点では知らなかったようですが、このような家庭は虐待リスクが極めて高いことと、それにプラスして、父親でない男性と同居しているという事実も、虐待リスクが極めて高いことは広く知られていることです。加害親からの聞き取りが不十分、かつ、情報の収集が遅れ、危機意識のない対応をしたと言わざるを得ません。横浜児童相談所だけの責任ではありませんが、7月の時点で助けることができたのは、横浜児童相談所(と南警察署)だけであつたのは確かなのです。
次に神奈川県警察の南警察署です。

ⅰ 一点目は、虐待通告してからほったらかしで何の対応もしていないことです。児童相談所にまかせっきりにするのではなく、虐待通告した何日か後に、子どもは大丈夫か確認に行けば、母親と同居男性も警戒して殺害するようなことは躊躇したかもしれません。これは南署だけの問題ではなく、心ある警察官が独自に行っているかもしれませんが、私の知る限り、警察はそのようなフォローを組織的には全く行っていないことと思います。
ⅱ 二点目は、横浜児童相談所から行方不明届けを出す相談を受けたときに、受理せず、捜索に直ちに動いた行動が見られないことです。秦野署がその後秦野市から受理しているのですが、なぜ南署が受理しなかったのか、当事者の説明が食い違っているようなのですが、理由が不明のままです。

2 ・前ブログで述べましたように、このようなことが二度と繰り返されないように、早急に、改善策をとることが必要です。当面の主な改善策は次の通りです。
就学年齢に達しているにもかかわらず未就学となっている児童を把握した教育委員会は、庁内の虐待担当部局、保健福祉担当部局、医療保険・国民年金担当部局、住民届・戸籍担当部局等子どもを抱えた親が申請・相談に立ち寄ることが予想される部局にその旨連絡するとともに、子どもの安否及び所在確認に努めなければならない。 所在確認ができた場合には、虐待のハイリスク家庭として児童相談所及び警察に通告し一時保護その他子どもの命が危険にさらされることのないよう適切な措置を取るよう要請しなければならない。 所在確認できない場合には、直ちに警察に連絡し、発見・保護活動を要請しなければならない。 住民届担当部局は、住民票の異動の届け出があった場合には、転出先の市区町村の住民届担当課及び教育委員会に通報しなければならない。
乳幼児健康診査未受診の子どもを把握した市区町村は、上記①と同様の対応をしなければならない。
児童相談所は、把握した未就学児童、乳幼児健診未受診児童について、虐待のハイリスク家庭として、生命に危険がないことが確認できる場合その他正当な事由がある場合を除いては原則として一時保護措置をとらなければならない。 所在不明となった場合には、直ちに警察に連絡し、発見・保護活動を要請しなければならない。
警察は、上記①、②、③に基づき連絡・要請を受けた場合において子どもの安否が確認できない場合あるいは虐待事案として把握していた子どもが所在不明になった場合には、住民票の異動の有無、関係先の調査等の上、全国警察に発見・保護の依頼を行うなどし、発見・保護活動を積極的に行わなければならない。 また、上記①、②、③に基づき連絡を受け子どもの安全がとりあえず確認できた場合あるいは虐待事案を自ら把握し児童相談所へ通告した場合について、その後子どもが虐待を受けていないか、所在不明となっていないか等について巡回連絡等により確認し、継続的に子どもの安否を確認するとともに、保護者から困りごと相談を受けるなどして生活の支援を通じ再虐待の防止に努めなければならない。
警察が上記④の発見・保護活動を行う際には、関係者に対して必要な情報の提供を求め、必要な資料の閲覧等を行うことができる。所在不明となっている保護者等の電話、メール等の調査を行うことができ、関係事業者はその調査に協力しなければならない。
3・ そして、上記の事項については、できる限り法律で、仮称「保護者とともに所在が不明の子どもの捜索及び安全の確保に関する法律」の中で規定することが必要です。その理由として次の二つの理由が挙げられます。

(1)第1に、市区町村内の関係部局の連携、異なる市区町村、教育委員会、児童相談所、警察という異なる機関相互の連携と二種類の連携が必要なわけですが、これらの「連携」は、既に通達や通知に書かれていることも少なくなく、一般国民からは「当たり前」、「当然そのくらいはやっているだろう」と言っていい内容なのです。しかし、わが国の場合、縦割りの弊害が強く異なる機関間ではもちろんのこと、同一の組織内でも他の課との連携協力は機能していないことが多いこと、自治体の多くではまともに研修を実施していないこと、行き過ぎた個人情報保護の意識(より正確には、個人情報を提供したとして抗議されることの忌避という「保身」)から子どもを救うために必要な情報ですら提供が行われないこと(このような情報の提供はもちろん合法)が少なくないという実態にあること、不適切な対応の結果子どもが殺害されても担当職員や幹部、知事や市長が懲戒処分を受けることがほとんどないこと(拙著「法律家が書いた子どもを虐待から守る本」参照)、そして何よりもこれらの関係機関の職員の虐待問題に前向きに取り組む意識がうすいことなどから、法律でこういう場合にはこういう事項をこういう機関に連絡しろ、そしてこういう場合は直ちにこうしろ、ということをできる限り法律で書ききらないと、一向に対応は変わらないことが確実に予想されるからです。これまで、何人の子どもが同様の連携不足で殺されてきたでしょうか。

(2)第2に、現行法では、学校、市町村、児童相談所、警察とも、居所不明児童の発見、保護のための調査権限は何も与えられておらず、警察ですら、犯罪の疑いがない限り、捜査活動して認められる捜査関係事項照会、捜索・差押え等を実施できないことから、任意で関係先を聞いて回ることぐらいしかできないことです。有力な調査方法である架電先の調査は捜査、しかも令状がなければ事業者が回答に応じませんし、NTTドコモによる携帯電話の位置情報の提供も1回限りでしかできないなどの大変大きな制約がなされている現状であることから、現行法の下では発見・保護活動は全く十分に行うことができません。そこで、学校、市町村、児童相談所、警察などの関係機関に居所不明児童の発見・保護に全力で当たることを義務付け、事業者にも当然のことながら調査に協力すべきことを義務付けるとともに、そのために必要な調査権限を付与すべきであると考えます。子どもの生命がかかっているのですから、最低でも捜査で認められる方法は付与されるべきであると考えます。

4 ・なお、上記法律案に対しては、様々な反対が予想されます。
第1に、上記3(1)に対しては、関係省庁・内閣法制局からは「これらの事項は法律で定めるべき事項ではない、行政機関内部の連絡などの事項はせいぜい規則か通達で定める事項である。それが法律作成の常識である。」と言われることと思います。しかし、そんなことにこだわっている場合ではないのです。そんな形式的な(意義がないとはいいませんが、事情によるのです)理由で子どもの虐待死を防ぐために有効な法律を制定しなければ、いつまでたっても関係機関のまずい対応は変わらないのです。私は警察庁で数多くの法律案の企画立案に携わり、内閣法制局に勤務した経験もありますので、役人はこういうことを言ってこのような法律は決して企画立案しないと思います。そこで、政治家の責任で法律を制定するしかないのです。具体的には、内閣提出法案ではなく、子どもの命を守ることに意欲と責任感を有する議員による議員立法でということです。政治家に対しては、役人の定めた「常識」に従って、子どもの命を救うために有効な法律の制定をサボタージュしないことを強く求めます。

第2に、上記3(2)に対しては、総務省や電気通信事業者が、通信の秘密に抵触するとかなんとか言って反対することが確実に予想されます(この点については、彼らは過去において自殺企図事案について警察からの照会に応じなかった「前科」があり、このことも含めて別途詳しく述べることとします)。

第3に、上記法律案で、警察が未就学児童や乳幼児健診未受診児童等虐待を受けている(疑いを含む)子どもの保護に積極的に対応すべきことを規定していることについて、民主党やどういうわけか虐待問題に携わる学者や弁護士から反対することが予想されます。
現行制度では児童相談所が被虐待児の保護に当たることとされ、警察はほとんど対応すべきことが法律上明記されず、実際に本件での神奈川県警察の南警察署にみられるごとく、警察も積極的な対応をしたとはみられません。しかし、警察の体制、能力からして、警察ができる限り、未就学児童や乳幼児健診未受診児童その他の虐待を受けている子どもの発見・保護に積極的に対応することは当然で、多くの国民も異論がないことと思います。
平成16年6月22日読売新聞によると、読売新聞社が同月に実施した全国世論調査に基づく結果として「児童虐待の防止や早期発見のために、児童相談所や保健所、学校などが十分な対応をとっていると思うか︱と聞いたところ、「そうは思わない」が「どちらかといえば」を合わせ73%に上り、「そう思う」は計21%にとどまった。…一方、児童を緊急に保護する必要があると判断される場合、警察官による強制的な立ち入りを認める方がよいと思うか―には、「そう思う」か「どちらかといえば」を合わせ85%を占めているとされています。
また、平成19年11月に日本子ども虐待防止学会のアンケート調査では虐待の通告先に警察を加え、初期の安全確認に警察が一定の役割を担うことについては、児童相談所の92・8%が条件付を含めて賛成し、ほとんどの児童相談所がその実現を望んでいるとされています(高橋幸成「警察と児童相談所」町野編「予防と対応」所収)。
しかし、平成16年の児童虐待防止法の改正の際、当時与党であった自民党・公明党が提案した「生命・身体に重大な危害が生じるおそれがある」時に現場の判断で警察が強制的に立ち入ることを可能とする条文については民主党の反対が強く、改正案が審議された国会で参考人として発言した虐待問題に取り組んでいるある弁護士は、「与党案のような警察主導の立ち入りは問題であると思っています。なぜなら、子供の権利擁護という観点から見るならば、警察の介入には慎重であるべきだと思います。警察は活用すべきですけれども、警察に主導権を与えると、それはやはり刑罰を念頭に置いた介入になってしまいます。」(平成16年2月27日衆議院青少年問題に関する特別委員会での岩城正光弁護士)と発言し、結局、警察に立入り権限を認める与党案に民主党が反対し、制定が見送られました(平成16年3月5日朝日新聞など)。
民主党は児童ポルノの単純所持の禁止にも反対し、被害を受けている子どもよりも加害者側の人間に過剰な配慮をする政党ですから、このような案にも反対することが予想されます。さらに、私が危惧するのは虐待問題に取り組んでいる学者や弁護士のかかる主張に自民党や公明党が配慮してしまわないかという問題です。
先ほどの弁護士の発言にあるような「警察に主導権を与える」とかそういう問題ではないのです。現状の最大の問題点は、児童相談所の体制、能力からして子どもを保護することが十分でないことが明らかであるにもかかわらず、警察が権限が与えられないことをいいことに腰を引いた対応を取っていることなのです。こういう人たちは、児童相談所の不適切な対応や人員不足により子どもが虐待死せられる事案が続きながら、警察もこれまでどおり腰を引いたままでいる状態をどう思っているのでしょうか。前記のように国民の多くも児童相談所自身も警察が一定の役割を担うことを望んでいるのです。そもそも、警察が担うのは被虐待児を発見し緊急に保護する分野です。その後の被虐待児のケアは児童相談所の役割です。それぞれの組織の能力・体制に応じた機能的な役割分担なのです。
 イギリスでは、警察に「Police Protection」という権限が認められ、裁判所の許可なしに独自の判断で子どもを保護することができるとされており(ただし72時間に限る)、また、法律には警察官の立入り・捜索に関する規定はないが、地方ガイドラインにおいて緊急性が高くスピードが要求される場合には生命・身体の安全を確保するため警察官は令状なしに建物内に立ち入ることができるとされています。また、警察も虐待の通告先とされ、虐待の調査も社会サービス局と合同で行うこととされているなど、警察の役割・権限が非常に大きなものとなっているのです(峯本耕治「子どもを虐待から守る制度と介入手法―イギリス児童虐待防止制度から見た日本の課題」124頁、145頁)。誰でも子どもを守りたいと真剣に考えればこういう制度になるのではないでしょうか。

 同様のことは、平成19年の改正により、児童虐待防止法では、児童相談所が虐待がされている疑いのある家庭に立ち入りする際に、裁判官の許可状を得て強制的に立ち入って、子どもを探すべきこと(臨検・捜索)とされたことにも見られます。それまで、厚生労働省は、事態の緊急性によっては、解錠やドアの破壊による立入りが正当防衛等として許容される場合もありうるとの解釈を示していましたので(平成12年11月20日「児童虐待の防止等に関する法律の施行について」厚生省児童家庭局長通知)、法改正により手続きを大幅に加重してしまいました。
 臨検・捜索するには裁判官の許可状が必要で、かつ、許可状を求める以前に[出頭要求→拒否→立入調査→拒否→再出頭要求→拒否]というプロセスを経ることが必要で、命の危険が切迫している場合に間に合わない場合が懸念されます。また煩瑣な手続きで大変な負担となることから、児童相談所が利用しないという問題があります。本制度が施行された平成20年4月1日から23年3月まで、わずか3件にとどまっています。
 虐待問題に取り組む学者や弁護士の中には、行政機関による立入りについては司法のチェックが必要などという意見が強く、それでこのような法改正がなされてしまったのかもしれません。しかし、子どもの命を犠牲にしてまで司法のチェックが必要だとするのは、何を優先すべきかということにつき、とんでもない考え違いをしているのではないでしょうか。司法のチェックといっても、必ず事前である必要もないわけですし(犯罪の場合ですら緊急逮捕できることになっています)、そもそも現行の裁判所の体制で迅速に許可状を発することができるのでしょうか。大阪市西区の2児置去り餓死事件にみられるように、マンションに置き去りにするような親に対して[出頭要求→拒否→立入調査→拒否→再出頭要求→拒否]というプロセスを経ないと立ち入れないというのでは、子どもは見ごろにしろと言うに等しいのです。抽象的な理念を緊急に対応が必要な場合にまで持ち出して、虐待される子どもを救うことができなくなるような制度をつくることは許されるものではありません。そもそも虐待が疑われ、子どもの安否確認に親が応じないという状況は、子どもの命の危険があることは、岸和田事件で明らかになったはずです。「子どもの人権」と「親の人権」の調整のため司法のチェックがいるという人がいますが、虐待が疑われ、子どもの命に危険があると判断される状況下で、子どもの安全な姿をみせようとしない、ドアを開こうとしない、そもそも子どもを置き去りにして遊びに出かけている親の守られるべき「人権」とは何なのでしょうか。この改正は子どもの命を軽視したとんでもない誤りであることが明らかで、早急に、平成16年改正の際に、自民党・公明党から提案された、児童相談所のほか、警察が「生命・身体に重大な危害が生じるおそれがある」時に現場の判断で強制的に立ち入ることを可能とする条文に改めなければならないと考えます。

 この世で子どもを守ることほど大事なことはないのではないでしょうか。にもかかわらず、子どもを守るための有効な制度が、一部の学者や弁護士、政党の特殊な思い込みやイデオロギーにより、実現しないことはあってはなりません。特殊な思い込みやイデオロギーにとらわれず、子どもを守るために体制的にも能力的にも有効な社会資源である警察を最大限に活用することが、絶対に必要です(なお、警察庁が警察がかかる役割を担うことを自ら拒否することはありません。既に平成11年に「女性・子どもを守る施策実施要綱」を打ち出し、虐待から子どもを守ることを警察の責務として位置づけているほか、平成24年の犯罪の発生件数はピークである平成14年に比べ半数以下に激減しており、業務上も対応不可能とは考えられないからです。)。
 ストーカー事案、DV事案について、被害女性はみなさん警察に助けを求め、警察は懸命に対応するようになっています。もちろん、先般の千葉県習志野警察署のようにまだまだ不適切な対応もありますが、全体としては10数年前の桶川ストーカー殺人事件の頃に比べて画期的に向上しました。警察が組織を挙げて本気で対応すると成果が確実にでるのです。もちろん大方針の発出と適切な研修、不断の努力が必要で、時間がかかることは否定できませんが、このまま児童相談所や市町村に任せているのとでは大変な違いが出ることは間違いありません。
 警察がストーカーやDV事案に対応することについては、男女間のことや家庭内のことだから警察は介入するべきでないという意見が、平成12年当時は、学者や弁護士の中にありました。しかし、今はほとんどありません。それは、学者や弁護士が、家庭内のことに警察が介入すべきでないなどというと、被害女性がなんてことを言うのか、と激怒し抗議するからです。命の危険にさらされている女性が、警察には助けてほしくないなどというわけがないからです。被害女性が大人であり、自分で声を上げることができるからです。それで、彼らも自然に黙るわけです。
 ところが、子ども虐待の場合は、子どもが声を上げることができないことから、今でも、学者や弁護士が、警察が介入すべきでないなどと言うのです。もし、子どもが声を上げることができれば、訴えることができれば、「とんでもないことを言うな。」と怒ることでしょう。こういう人々の意見は、突き詰めると、警察が家庭内の子どもを救うよりも、見殺しにする方がいいといっているようなものですから。子どもたちが、こういう事実を知り、声を上げることができれば、「警察にでも誰にでも救ってほしいのだ」と訴えるに違いありません。大人の訳の分からないイデオロギーで、自分たちを子どもたちを見殺しにするな、と訴えるに違いありません。
 こういう人たちに是非とも言いたいのは、「頼むから黙っていてほしい」ということです。 平成16年法改正時における妨害や平成19年改正時における改悪のようなことは、絶対にしないでほしい。本当に子どもを虐待から救いたいのであれば、(自分たちのイデオロギーは抑えて)是非とも黙っていてほしいと痛切に願います。

5 ・最後に、上記法律案は対症療法に過ぎず、虐待問題の根本的な解決につながらないという批判がありえます。これはあらゆる対策を講じようとするときによく耳にする批判です。わたしも、警察庁あるいは都道府県警察勤務時に、必ずこういう理由で法律案、条例案に反対されました。100点満点を取らない限りは認めないという意見で、大部分はためにする言いがかりですか、中には本気で言っている人もいるようです。こういう人に対しては、世の中をよくするために少しでもいいことには反対すべきでない、「対案ない限りは黙っているべきだ」(ガルブレイス)だという言葉を返したいと思います。
 一方で、上記法律案は虐待問題のごく一部にしか対応するものでないことは事実です。わたしどもNPO法人シンクキッズは、子ども虐待問題が一向に改善しないのは、わが国社会が「子どもは親の所有物」とする意識がいまだ根強く、子どもを性の対象、あるいは暴力の対象とすることを容認する社会、子どもの命や健やかな成長よりも大人のゆがんだ欲望や経済的利益を優先する社会であることが根本的な原因であると考えています。児童ポルノの単純所持の禁止が民主党の反対でいまだ実現しないこと、子どもを襲う常習的性犯罪者に対する対策がほとんど講じられていないこと、子どもを虐待死させた親に対する処罰が異様なまでに軽いこと、少なからぬ教師が児童生徒に対して体罰と称する暴力行為やセクハラ行為を繰り返しながら、多くが黙認され、数少なくなされる処分も軽いものが多く、学校が毅然として厳しい処分をすれば裁判所に取り消されることが少なくないことなど数え上げればきりがありません。そこで、私どもは、子どもに対する虐待、性犯罪、教師による暴力・わいせつ行為、いじめ、事故などから子どもを守るための総合的かつ根本的な法制度の整備が必要と考え、「子ども安全基本法」とそれに基づく「子ども安全基本計画」の整備を提唱しており、その概要はシンクキッズのホームページで公表しています(http://www.thinkkids.jp/archives/359)。これは、かかるためにする批判に対する回答でもありますが、虐待のまん延、児童ポルノのまん延をはじめとする子どもの命が危険にさらされ、子どもよりも大人の欲望が優先されている社会を、子どもの命が最大限尊重される社会とするために必要不可欠な案と考えています。
 現在、政府では、「子ども・子育て会議」が設置され、待機児童の解消など様々な施策が検討されています(4月26日に初会合)。しかし、必要なのは、子育て支援だけではなく、子どもの命を親を含む大人から守るための施策なのです。たしかに、このような施策は、選挙権を有する大人からはあまり歓迎されることはないでしょう。むしろ、子どもに対する暴力・性的行為に親和的な大人や規制に対して経済的利益が減ると感じる業界からは反対されるでしょう。しかし、子どもたちのため(あまりこういう言い方はしたくないのですが、少子化対策のためにも、虐待対応に要する社会的コスト・費用を軽減するためにも、あるいは国際社会に日本が誇りを持って関与していくためにも)是非とも必要なのです。是非、政府・与党における前向きの検討を望みます。役人は決して自らかかる施策に取り組もうとしませんが、官邸、総理の指示であれば渋々でも行います。犯罪被害者等基本法の制定の際もそうでした。当時の小泉総理の指示で関係省庁の抵抗を排除して進展させることができました。しかも、この問題についてはあまりに多岐にわたる対策が必要ですので、厚生労働、法務、警察・国家公安委員会、文部科学等の個別の省庁では対応できないのです。総理のリーダーシップで実現していただくことを強く望みます。犯罪被害者の司法参加を実現する刑事訴訟法の改正も当時の安倍総理の強いリーダーシップで実現しました(この事情については拙著「なぜ被害者より加害者を助けるのか」参照。)。是非とも、本問題も安倍総理の強いリーダーシップで実現していただくことを期待します。
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