このサイトは、警察庁に23年間勤めた弁護士による、コンプライアンス、リスク管理、反社会的勢力対策などの企業法務と犯罪被害者問題、児童ポルノ問題など放置されている様々な社会問題について発信するサイトです。


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朝日新聞法務大臣「死に神」掲載のコンプライアンスと危機対応

朝日新聞平成20年6月18日夕刊の「素粒子」という欄に
「永世死刑執行人、鳩山法相。「自信と責任」に胸を張り2ケ月間隔でゴーサイン出して新記録達成。またの名、死に神」
という記事が掲載されました。
 法務大臣は死刑判決が確定すれば6か月以内に執行を命じなければならない(刑事訴訟法475条)とされているにもかかわらず、法律の規定に従い職務を遂行した鳩山大臣を「死に神」呼ばわりすることは、明らかに鳩山法務大臣に対する侮辱であり、刑法上の侮辱罪に当たるものであるとともに、わが国が法治国家であることを否定することになります。また、この記事により、死刑を求刑した検察官、死刑判決を下した裁判官、死刑執行に携わった刑務官の方々の多くは「死に神」呼ばわりされたと感じられたのではないでしょうか。さらに、犯人に家族を殺された犯罪被害者遺族にとっても、自分が「死に神」呼ばわりされたようにも感じられ、極めて大きな二次被害を与えるものでありました。理不尽にも家族を殺された遺族の方は犯人が死刑になることを望んでいます。この記事はそれが悪いことであるかのようなメッセージを社会に与えかねません。
 そこで、全国犯罪被害者の会(あすの会)は朝日新聞に、別紙1のとおり公開質問文を提出し、説明を求めました。しかし、朝日新聞は、正面から説明しない回答を2度行うなどあまり誠実とは言えない対応でしたが、8月1日大幅に非を認めた回答書を作成するに至り、2日付の同紙朝刊に回答書が掲載されました(別紙2)。
 わたしは、あすの会の顧問弁護団の一員としてこの問題に対応してきた当事者であり、犯罪被害者の立場からすれば、朝日新聞の本件記事掲載とその後の対応には大きな問題があると考えていますが、本問題は、マスコミのコンプライアンスと危機対応のあり方として、示唆に富む事例でもあります。
 まず、不適切で品のない記事を掲載してしまったことです。担当編集委員が書いた原稿をチェックすべき論説副主幹がそのまま了承してしまいました。その理由としては、チェック機能が働かなかったという言い方もできますが、本件の場合、原稿を書いた人、チェックする人双方に想像力の欠如というか、思いやりの心を欠いていたということだと思います。誰でも死刑の執行命令を出すのはいやなものです。しかし、法務大臣はそれが職務でありますから、悩み苦しみながらも命令を出しているのです。そのくらい想像できそうなものですが、それが分からなかったようです。さらにこの記事を見た死刑判決や執行にかかわった裁判官や検察官、刑務官の方、家族を殺された犯罪被害者遺族がどのように思うかも、想像できなかったようです。想像力、思いやりの心の欠如が著しいということだと思いますが、広い意味で、コンプライアンスが欠如していたと言えると思います(形式的にいえば、刑法の侮辱罪に当たるような記事を掲載していますので、法令違反といってもいいと思います。)。
 次に、本件記事に対しては、あすの会以外からも多数の抗議が寄せられましたが、十分な説明や謝罪をしなかったことです。翌日である6月19日付の素粒子で中途半端な釈明をしたのみで、誠実さに疑念をさらに生じさせることとなってしまいました。明らかに不適切な表現なのですから、なぜ速やかに訂正・謝罪しなかったのか。マスコミとして政治家に対しては謝らないという考え方もあるのかもしれませんが、それは内容によりますし、前記のとおり政治家以外の人をも傷つけているのですから、速やかに訂正・謝罪するべきではなかったのでしょうか。もしそうしていれば、朝日新聞に対する信頼はこれほどは揺らぐことはなかったでしょう。
 さらに問題なのは、いつまでも責任を認めない姿勢が顕著であったことです。あすの会からは公開質問状が3回出されましたが、1回目、2回目の質問状に対しては正面から答えず、自己の主張を述べるという色彩の強いものでありました。公開質問状への回答ですので、当然それが公表されることが分かっていながら、このような対応を繰り返したことは傷口を広げたこととなりました。いずれも、危機対応として大きな問題があったと思います。
 この問題に反対の当事者として朝日新聞の対応をつぶさに見た立場からは、記事を書く人、チェックする人の想像力や思いやりの心の欠如、広い意味でのコンプライアンス意識の欠如という問題と、かかる事案が起こった場合に適切に対応する危機対応の準備ができていないという問題があると感じました。
 前者については、基本的には人の問題でありますが、本事例などを教訓として対処していくべきでしょう。後者については、企業風土、あるいはガバナンスのあり方を見直していくことで改善が可能と考えます。それは、論説・編集部門の独善を正すということです。マスコミはいずれも論説・編集部門が花形であり、他部門のチェックが働きにくい構造にあるかと思います。本件についても、当初、論説部門が謝らない、正面から回答に答えないという方針であったようで、コンプライアンス部門の意見がなかなか反映しなかったのではないかとも感じられました。このような問題に際しては、コンプライアンス部門の意見が受け入れられるような企業風土にする必要があると感じた次第です。そこで思い出したのは、三菱自動車のリコール隠し事件です。この事件も、花形部門である設計・開発部門が欠陥を認めないという姿勢から生じたものでありました。企業にとっては、花形部門の独善をいかに拝して、適切に危機に対応できる体制を講じていくかが重要となっています。
以上
別紙1
2008年6月25日
朝日新聞社 代表取締役社長秋山臥太郎 様
全国犯罪被害者の会(おすの会)
代表幹事 岡 村 塾
抗議および質問
平成20年6月I8日付け貴社夕刊に 「永世死刑執行人 鳩山法相。「自信と責任」に胸を張り、2カ月間隔でゴーサイン出して新記録達成。またの名、死に神。」という素粒子欄記事(以下 「右記事」という)を見て驚惜しました。
永世死刑執行人、死に神の正確な意味は分かりまぜんが、少なくとも良い意味でほ使われてばいまぜん。木記事ば、法務大臣だけでなく、死刑求刑した検察官、死刑判決した裁判官、執行に関与した関係者等すべてを侮辱するものと言わざるを得ま七ん。
特に衝撃を受けたのぼ犯罪被害者遺族です。
睦定死刑囚の一日も早い死刑執行を待ち望んできた犯罪被害者遺族は、法務大臣と同様に永世死刑執行人、死に神ということになってしまいます。
犯罪被害者遺族は・これまで数多くの二次被害,三次被害を受けてきましたが、今回ほど侮辱的で、感情を逆撫でされる苦痛を受けたのは切めてです。また本記事は、犯罪被害者遺族が、死刑を望むことずら悪いことだというメッセージを国民に与えかねまぜん。
死刑判決が確定しだ死刑囚に対して、法務大臣が原則として6ケ月以内に死刑を命じなければならないことは、刑事訴訟法左75条に定められており、鳩山法務大臣は、法律に従って粛々と死刑執行を命じたに過ぎないのです。本来法治国家とほ、法律が制定されるだけでな,、それが執行されてほじめて意味を持つものですが、法を執行する法務大巨を非難することほ、法治国家を否定することにもなります。

本記事が掲載された後、多くの非難抗議を受けた貴社は、「鳩山氏や関係者を申傷する意図はなかった、法相のご苦労や被害者遺族の思いは、十分承知しているョなど弁明されましたが、本当に分かっておれば、このような侮辱的な言葉は使用できないはずです。「風刺ほつくづく難しいと思う」ともありましたが、死刑という厳粛な問題を風刺の対象にすることも、不穏当でほありませんか。
そこで、次のとおり公開の質問をいたしますので、I週間以内に全国犯罪被害者の会 (おすの会)宛にご回答を頂きたく、お願いいたします。

質問事項
1.永世死刑執行人、死に神の意味を明らかにしてください。この言葉に、犯罪被害者は塗炭の苦しみを味あおされているのです。
2.本記事が、死刑を求める犯罪被害者遺族にどんな気持を起こさせるか考えなかったのですか。考えたとすれば、どうして本記事を書かれたのですか。
3.本記事後、貴社は 「法務大臣や関係者を申傷する意図は全くありません」とのコメントを発表していますが、意図などうであれ、「永世死刑執行人、またの名・死に神」との記載砥、法務大臣に対する侮辱申傷になると思いませんか。
4.平成20年6月19日の素粒子 「それでも死刑執行の数の多さをチクリと刺したつもりです」とのコメントとありますが、法務大臣の死刑執行の数がどうして問題になるのでしょうか。

別紙2
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