このサイトは、警察庁に23年間勤めた弁護士による、コンプライアンス、リスク管理、反社会的勢力対策などの企業法務と犯罪被害者問題、児童ポルノ問題など放置されている様々な社会問題について発信するサイトです。


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危機対応の観点からみた財務省事務次官セクハラ疑惑問題への対応の問題点

危機対応の観点からみた財務省事務次官セクハラ疑惑問題への対応の問題点

1 財務省事務次官のセクハラ疑惑についての財務省の対応は、最近まれにみる「火に油を注ぐ」対応でした。日本レスリング協会の伊調選手へのパワハラ疑惑への対応もひどいものでしたが、それをはるかに上回る稚拙な対応で、財務省のみならず政権に大きなダメージを与えてしまいました。
  私は、警察勤務の中で、あるいはその後弁護士として、役所、企業、大学、スポーツ団体等におけるセクハラ・パワハラ問題に数多く対応し、また、警察勤務の折には女性記者からしばしば取材を受ける立場にあり、財務省の事務次官と同じような立場にありました。今回NHKから取材を受け報道され、その後問い合わせもいただいておりますので、以下に主に危機対応の観点からみた財務省の対応の問題点についてまとめてみました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180418/k10011408531000.html



  なお、ここで危機対応とは、不祥事や重大事故等の場合に組織のダメージを最小限にするための対応のことを言います。

  ただ、本件では、財務省は危機対応に極めて稚拙な対応をし、かつ、次官のセクハラ疑惑という問題を生じさせましたが、テレビ朝日が被害者である女性記者から訴えるよう相談を受けながら握りつぶしていたことのほうが、セクハラを容認する社内風土、被害者である社員を見捨て立場の強い取引先に逆らわない体質、それにもかかわらず被害女性の対応を問題視する発言・・等々が見受けられ、組織としてー報道機関であり他組織を厳しく批判する立場にあるのですからなおさらーより大きな問題であると思います。大手マスコミの多くはテレ朝と似たようなものだと推測され、こちらのほうが我が国社会の抱えるセクハラ問題にとってはより深刻で、マスコミは財務省を批判して、すましている場合ではないのではないかというのが率直な感想です。ただし、岩手日報は下記の通り毅然とした対応で知られています。この問題については別の機会に論じることにします。

https://mainichi.jp/articles/20171206/k00/00e/040/294000c



2 これまでの財務省の危機対応上の問題点は大きくは次のとおりです。

1まず大臣が調査をせず口頭注意で十分との意向を示し、その後ネットで音声データが公開されようやく調査を行うことしたこと
2調査の方法として、省内の職員や記者クラブの記者などからヒアリングをしようとせず、まず被害女性に名乗り出るようマスコミに公表して求めたこと
3官房長が国会で「被害女性が弁護士に名乗り出て名前を伏せておっしゃるということはそんなに苦痛なことなのか」などと答弁したこと

(1)上記1について
  企業、大学、スポーツ団体、役所を問わず、部内外からセクハラ被害が訴えられている場合はもちろん、セクハラ疑惑が報じられている場合に調査しないという対応はありえません(セクハラ疑惑にかかわらずすべてのコンプライアンス違反についてありえません)。早期に幕引きを図ろうとしたのではと推測されますが、被害女性に真摯に対応するという観点のみならず、特に本件では大きな政治問題になっている中で調査しないという対応で収まるわけがないのは誰の目から見ても明らかでした。
  このような対応をなぜ大臣にさせたのか。大臣を止めたのに聞き入れられなかったのか、財務省(これ以降「次官以下の役人組織」のことをいうことにします)の方針だったのかは分かりませんが、もし後者だとすると財務省は組織として危機対応上ありえない初動対応をしたということになります。セクハラ、パワハラを含めコンプライアンス違反一般についても、部内外からの通報に対してこのような対応をしているのではないかと推測されます。
  案の定といいますか、音声データが証拠物として出てくるに至り、しぶしぶ調査することに追い込まれ、益々稚拙な対応が誰の目にも明らかになっていきました。

(2)上記2について
  次に、 調査の方法として、まず、省内の職員や記者クラブの記者などからヒアリングをしようとしなかったことも首をかしげざるを得ない対応です。被害女性に名乗り出るよう求める以前に、まずは、省内の職員、記者クラブの記者からヒアリングをして、次官の日ごろの言動や女性記者としばしば会食をしていたのか、あるいは全くないのかなどについて調査することが必要な対応でした。そもそも次官のセクハラ疑惑が問われているのですから、録音されていた会話の案件についてのみ調査するだけでは不十分なのですが、そのような意識は財務省にはあったのでしょうか。週刊誌でも指摘されているのですから、録音されていた案件以外にも、次官にセクハラ行為がなかったのか、女性記者との一対一での会食の機会がなかったのかなどの点を調査する必要があり、そのために、省内の職員、記者クラブの記者からヒアリングを行う必要があるわけです。そのような調査をすれば、その過程で被害女性が名乗り出る可能性もあったわけですし、他の記者からあの人ではないかという情報を得られる可能性もあったわけです。
  もちろん、いずれかの時点で被害女性から事情を聴く必要があるわけですが、まずは、上記のような調査方法をとるべきだったと思います。そもそもセクハラ被害は言い出しにくいものであるうえに、本件では重要な取材対象である事務次官は記者にとって極めて優越的な立場にあるわけですし、さらに、週刊誌報道され国会でも問題にされ、日本中が注視している状況下で、被害女性に「名乗り出るように」求めることは、ただでさえ高いハードルをさらに高くしたものといえることができます。このような対応は、被害女性に被害申告をとどまらせようとする意図のものでないかとの疑いを多くの国民に持たれてしまい、財務省の誠実さを疑われることとなってしまいました。
  これについて財務省にはそのような意図がなかったのかもしれませんが、そのように受け止められることが確実であることは予想できたはずであり、それを事前に予想できなかったのであれば、やはり危機対応が稚拙ということになります。

(3)上記3について
  さらに、財務省の官房長が国会で「被害女性が弁護士に名乗り出て名前を伏せておっしゃるということはそんなに苦痛なことなのか」と答弁したことも(毎日新聞H30.4.20)、さらに「火に油を注ぐ」ことになりました。このような状況下で「名乗り出よ」と求めること自体が被害者にとってハードルを上げていることを理解していないのか、あるいは理解した上であえてやっているのではと捉えられてしまうのです。いずれにしても多くの国民から次官のみならず官房長までこのような意識なのか、「財務省はこんな奴ばかりなのか」という印象を与えてしまい、次官個人の問題でなく、組織全体も問題だという印象を強く持たれてしまったと思います。
  さらに、官房長は「本件はそもそも加害があったかどうかというところに疑義が生じている」とも答弁しています(毎日新聞H30.4.20)。社員が警察に逮捕された場合などに企業にマスコミからコメントが求められますが、そのような場合は「事実関係を確認し事実であれば厳正に対処する」というコメントが定番です。たしかに本件ではまだ事実関係は分からないのですが、事実である可能性が全くないと確信できる状況にないにも関わらず(そもそも調査すべき財務省が十分な調査もしていないのに)、セクハラがなかった場合を前提とした強気の発言をするというのも、組織のダメージを最小限にするという危機対応の在り方からは理解しがたい対応です。セクハラがあったと認定される場合のことを考えないのでしょうか。上司である事務次官の説明を信用したのかもしれませんが、不祥事の調査に際して社員の不正はしていないという説明を信じて経営陣が軽々に不正はないと断言することは非常にリスクが大きいことは企業にとっては常識です(例として三井物産国後島入札不正事件等。拙著「企業コンプライアンス」p185文春新書)。

  以上のほか、財務省が財務省の顧問弁護士事務所に調査を依頼したという点も批判されています。この点は、企業でもこのような場合に顧問弁護士に調査を依頼することは通常ですので、一般的には批判されることではないと思いますが、ここまで財務省に信用がなくなっている状況では他の独立した弁護士に依頼したほうがよかったことは結果からみれば明らかです。ただ、財務省にはそこまで判断する余裕がなかったのではないかと推測いたします。
  また、次官が提訴予定だということを財務省のHPで公表したことも、余計なことだと思います。次官の個人の行動が問われているわけですから、組織としては次官の意向を代弁するようにみえる事項はコメントしないほうがよかったと思います。

3 以上、簡単に財務省の危機対応上の問題について述べました。役人としての経験、あるいはその後の弁護士の経験からは、役所は日ごろ追及を受ける立場にないことから、攻められることをあまり想定せず、社会の変化に気づかないまま自分たちの内輪の考え方や(論理というよりも)理屈に自信を持ちすぎている(官房長の発言はその典型)、という印象です。この点は、児童相談所がいつまでも警察と情報共有を拒否し続ける姿勢にも通じるものがあります。企業では、ひと昔前と異なり最近では不祥事は業績に直撃し、社長が辞任に追い込まれることも珍しくないようになったことから、危機対応にも細心の注意を払うようになってきたのに対して、役人はほとんどそのような社会の変化、国民の意識の変化などを意識しないのでしょう。また、企業は最近は社外役員の発言力の高まりもあり、このような事案について部内だけで対応することはありえなくなってきていますが、役所はいまだ役人以外の者を内部に入れず閉鎖的であり、今までの内輪のやり方で大丈夫だろうと考えてしまうのだろうと推測します。危機対応の観点からも、財務省を含め各官庁は企業に倣い部外者を登用することが必要だと考えます。
  仮に、私が財務省内に部外者として何らかの立場にいれば、本件については報道がなされた時点で速やかに、
1 直ちに事実関係を明らかにするために調査することを明言し、
2 具体的には、まず、問題とされた案件以外も含め幅広く、事務次官のセクハラ発言があったか否か、女性記者との会食がどの程度あったのかなどについて、省内の職員・記者クラブの記者から数多くヒアリング調査することとし
3 調査については私ないしは外部の弁護士が当たることとし、
4 本件の被害女性については、上記の調査を通じて、被害女性に配慮しながら把握できるように努め、把握できた場合には理解を得て直接聞き取りを行い、事実関係を明らかにする
5 事実関係が明らかになれば、直ちに事実関係と関係者の処分、再発防止策を発表する

という方針を、マスコミ、国会等で明らかにします。そして、調査終了時には必ず上記5 ―事実関係と関係者の処分、再発防止策―を報告するので、被害女性が申告できるような静かな環境を整えるためにも、調査が速やかに円滑に行えるためにも、調査が終わるまでは国会での質問やマスコミ報道を控え静かに見守ってほしい、旨要望します。
  このような対応をすれば、財務省は誠実に対応しようとしていると理解が得られ、本件は次官の個人的な問題と捉えられ(そのような風土であるという組織上の問題はありますが)、財務省の組織がかくも信頼を失墜しダメージを受けることはなかったと思います。
  さらに言えば、本件のように大きく報道された事案につき調査を進めることは、そうでない事案に比べ格段に困難です。組織にとってはあることないこと報道されダメージが拡大しますし、部内外の関係者の心理的圧迫や不安も大きく、最悪自殺者を出してしまう危険もあります。私は警察時代にこのような案件について、記者クラブに上記のような方針を説明して、マスコミ各社の理解を得て、調査を進めることができたことがあります。ちゃんと調査して処分するだろうという信頼関係があれば可能なやり方です。もちろん、調査終了時にはすべて発表しました。
  財務省では別の案件について自殺者が出ています。さらに万が一にもそのような不幸なことが起こらないよう、冷静なやり方で調査が進み(本件は明らかに主として次官個人の資質の問題であり、政局にからめるような行き過ぎた報道等は関係者の心理的圧迫や不安をかき立てることになります)、事実関係が明らかになり、関係者の処分と再発防止策が講じられることを望むものです。
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