このサイトは、警察庁に23年間勤めた弁護士による、コンプライアンス、リスク管理、反社会的勢力対策などの企業法務と犯罪被害者問題、児童ポルノ問題など放置されている様々な社会問題について発信するサイトです。


gotohfacebook.jpg
goto2013-think2.jpg

【著書】 book07.jpg
book06.jpg
book05-1.jpg
book04.jpg
book01.jpg
book02.jpg
book03.jpg

「ガバナンス向上のため」とはー独立役員制度、あるいは西武vsサーベラス事案から

「ガバナンス向上のため」とはー独立役員制度、あるいは西武vsサーベラス事案から
 先日、私が社外監査役を務め、独立役員にも指定されている企業で株主総会があり、もしかしたら質問されるかもしれないと思い、「独立役員」制度について東証から出されている「ハンドブック 独立役員の実務」という本をじっくり読んでみました。
 そこには、すべての上場会社が備えるべきコーポレート・ガバナンスの枠組みとして「独立役員」制度を設けたこと、独立役員には一般株主の利益保護を踏まえた行動をとることが期待されること、そして「一般株主」とは、市場での売買によって常に流動する可能性がある株主で、経営に対する有意な影響力を持ちえない少数株主をいうとされています。このような役割からして独立役員となる要件としては、経営陣から著しいコントロールを受けないこと(A)と経営陣に対して著しいコントロールを及ぼしえないこと(B)とされています。(A)には、会社の従業員や下請け会社の役員・従業員等が当たり、(B)には、親会社や取引銀行、支配株主その他の大株主が当たるとされています。

 現在、西武VSサーベラスの事案が話題になっていますが、この事案は、独立役員の要件の(B)に関連するものとして、上場会社のコーポレート・ガバナンスのあり方について検討の材料を提供するものとなっています。たまたま、私が社外監査役・独立役員として、上場会社のガバナンスの確保のための独立役員の役割について考えていた時期でありましたので、若干思いつくことを記したいと思います。
 報道によると、サーベラスは32.4%の株を保有する筆頭株主で、支配的株主といえます。TOBにより44%まで持ち株比率を上げることを目指し、さらに、8名の者を取締役として選任することを株主提案すると言明し、その理由は「ガバナンスの向上」のためとされています。ここで誰もが引っかかるのが、上場を目前に控えている会社で支配的株主が取締役会で半数以上となる取締役を送り込むことは、「独立役員」制度を設けることにより上場会社のガバナンスを向上させようとする趣旨に合致するのか、誰のための「ガバナンス向上」につながるのかということです。「ハンドブック 独立役員の実務」では、「支配株主その他の大株主は、議決権を通じて経営陣に強力な影響力を及ぼすことができます。したがって、交渉力だけを見れば、会社との間で取引を行う場合、会社に不利な条件が押し付けられれば、支配株主等が一般株主を含む他の少数株主の犠牲において利得を得る構造となります。」と記載されています。構造的には、支配的株主が送り込んだ取締役が過半数を占める企業では、一般株主の利益よりも、支配的株主の利益を優先することになりやすいということができます。このような観点から、支配的株主が取締役会の過半数を占める取締役を送り込むことがなぜ「ガバナンスの向上」につながるのか、という点については詳しい説明があればと思います。
 「2013.3選択」によりますと、サーベラスが西武HDと締結している資本提携契約について「東証の上場の審査基準では上場手続きを進めるに際して、当該企業に対し特定の株主のみを優遇するような契約は上場申請前に解除するよう求められている。資本の取り扱いの平等を認めないと、投資家は誰も安心してその会社の株式を買えないからだ。第一、株主平等の原則は会社法にも謳われている精神でもある。そこで、西武側が資本提携契約の解約を申し入れ、サーベラス側は「とりあえず解約には応じる」としたものの、今度は新たに「合意書」なるものの締結を迫った。その要点は①上場承認日までの西武HDの新株発行などの停止、②東証の指導内容を含むバリュエーション情報の全面的提供、③12年12月までの上場承認が不可能となった場合、あるいはIPO価格がサーベラス側の見積もり価格と折り合わなかった場合の提携契約の復活―で、事実上解約を「骨抜き」にする内容といってよい。当然のことながら、東証がこんな合意書の存在を是認するわけがない。いずれもサーベラスに特別の権利を与えるものだからだ。実際、サーベラスと同様に資本提携契約を結んでいた日本政策投資銀行は7月初旬、東証のガイドラインに沿う形で「無条件解約」に応じている。」とされています(一部省略あり)。
 事実かどうかは知る立場にありませんが、もしこれが事実だとしますと、サーベラスは、他の株主には到底認められない事項を要求していることになり、日本政策投資銀行の対応との対比からしても、一般株主には認められない支配的株主の力を振りまわしているようにみえます。この点について、事実かどうかにつき説明があればと思います。

 西武鉄道は支配株主による名義偽装という上場会社としてのガバナンスの根本規範を犯したとして上場廃止となりました。上場を目指しているいま、再び異なる支配的株主によるかかる行動がみられることは、皮肉というか、一般株主や利用者・地域住民、従業員らのステークホルダーにとって極めて不幸なことです。上場会社、特に、鉄道会社という公益事業を営む会社のガバナンス向上のためには、支配的株主による経営の関与を高めることがいいのか、一般株主や他のステークホルダーの利益擁護に当たる独立役員の関与を高めることがいいのか、考えさせられる事案であると思います。

 なお、 一般論として、経営陣が支配的株主と意見が一致しないことをもってガバナンスの欠如と批判されることでないことは言うまでもないでしょう。それはまさに当該支配的株主の求める内容次第であり、求めるものが法律や東証の規則違反となるおそれのあるものであったり、一般株主に認められない権利を要求するものであったり、一般株主の利益を犠牲にするものであったり、社会的責任を果たす観点から受け入れることができないものであれば、経営陣(特に独立役員)には支配的株主の意向に従わないことこそ、コンプライアンス、ガバナンスの観点から求められるのであって、ガバナンスの欠如と批判されるものでは決してないでしょう。
 今後も、独立役員の立場にある者として、支配的株主・経営陣との関係、ガバナンスのあり方について考えていきたいと思います。
後藤コンプライアンス法律事務所
〒650-0024 神戸市中央区海岸通5番地 神戸商船三井ビル306号室
TEL:078-335-8215  FAX:078-335-8216
Copyright(C)後藤コンプライアンス法律事務所. All Rights Reserved.