このサイトは、警察庁に23年間勤めた弁護士による、コンプライアンス、リスク管理、反社会的勢力対策などの企業法務と犯罪被害者問題、児童ポルノ問題など放置されている様々な社会問題について発信するサイトです。


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反社会的勢力との取引関係解消をめぐる問題について

反社会的勢力との取引関係解消をめぐる問題について
 前回もご紹介しましたが、このたび「きんざい」から出版されました「実戦! 社会vs暴力団 暴対法20年の軌跡」に私の論文「暴力団等反社会的勢力からの企業防衛策の整備の必要性」が掲載されました。本論文は、反社会的勢力やグリーンメーラーら企業価値を毀損あるいは他のステークホルダーの利益を顧みない者(以下「企業価値毀損者」という)による株式の大量買占め事案や乗っ取り事案に対する企業の防衛策として、企業がこれらの者の議決権行使を認めない措置をとることができることや電気・ガス、鉄道、航空事業等公益的事業を営む企業に対して主要株主規制を導入することを提言するものです。
 現在、西武vsサーベラスの事案が話題になっている折りでもあり、今後、これまでの買収防衛策や私の提言している防衛策の有効性、必要性について話題になってくるかもしれませんので、ご関心のある方はご参考にしていただければと存じますが、ここでは、反社会的勢力との取引関係の解消をめぐる問題、相手方についてとかくの風評はあるが確認できない場合の対応について述べることとします。

 2013年4月10日毎日新聞によると、「準構成員」であることを隠して、暴力団排除条項のあるマンションの売買契約を締結した男性が詐欺罪に問われた刑事裁判において、弁護側は「準構成員ではない。知人に組員はいるが、組員になる前からの付き合いで、組の活動とは無関係」と主張し、争われているとされています。警察が認定した事案ですら、相手方が反社会的勢力であるかどうかの立証にはかなりの困難が伴うケースもあるのです。企業ではさらにそうだと思います。既存の取引先がとかくの風評はあるが確認できない場合は多々存在します。そのような場合にどう対応すべきでしょうか。

 蛇の目ミシン事件最高裁判決は、企業の取締役はグリーンメーラーから不当な要求を受けた場合には、法令に従った適切な対応をする義務を有するとし、警察に届けることなく多額の金員を交付したことは、取締役の善管注意義務に反すると判断しました。
 スルガコーポレーション事件は、反社会的勢力と関係を有するとされる業者を地上げに利用していた事案が発覚し、当該業者が検挙された後、自らは刑事責任が問われたわけではないにもかかわらず、金融機関からの融資がストップし、民事再生に追い込まれた事案です。勝村建設事件は、談合の仕切り役を務めていた同社幹部社員が談合に応じない企業の役員に対して暴力団員を使って脅していたという事案が発覚し、やはり、金融機関から融資がストップし、民事再生に追い込まれた事案です。
 このように、反社会勢力からの不当要求に応じたり、取引関係にあったり、不正な行為に利用したことが発覚した場合には、取締役が任務懈怠の責任を負うこととなり、あるいは企業が倒産に追い込まれたりする場合があることが明らかになりました。
 現在では、反社会的勢力を不正な行為に利用する、不当要求に応じるということは論外の行為となっているわけですが、反社会的勢力と取引関係に悪意なく立つということはいかなる企業でもありうることであり、当該取引先が反社会的勢力と判明した場合、取引関係の解消が、企業のリスク管理として、あるいは取締役の善管注意義務を果たす観点から必要になってきます。
 当該取引先が反社会的勢力であることが明らかである、裁判において立証できるのであれば、勇気があれば、取引関係は遮断できます。暴排条項がある場合は解除が認められやすいでしょうし、錯誤無効の主張が認められる場合もあり、裁判で争われても勝訴することが多いと思います(錯誤無効の主張を認めたものとしてグランドプリンスホテル広島結婚披露宴契約解除事件2010年4月13日広島地裁判決。他の事案についても拙著「企業・自治体・警察関係者のための暴力団排除条例入門」参照)。
 悩ましいのは、反社会的勢力と関係があるとの風評があるが確認できず、警察に相談しても何らの情報の提供を受けることができず、裁判では到底立証できない場合です。このような場合に、企業は取引関係の解消、契約の解除を行うことが求められるのか、言い換えると、仮に後日反社会的勢力と関係を有する企業であることが明らかになった場合に事前に解除しなかったことが、取締役の善管注意義務違反となるのか、社会的非難を受けることになるのか、最悪、金融機関から融資をストップされることになるのか、などとても気になることだと思います。
 結論からいえば、このような場合には、訴訟を起こされた場合には暴排条項に基づく解除も錯誤無効の主張も認められず、敗訴が見込まれるわけですから(敗訴したものとして、日本競馬協会馬主登録拒否事件2010年6月25日札幌高裁判決、宮崎市生活保護申請却下事件2011年10月3日宮崎地裁判決。上記拙著参照。ただし、福岡高裁宮崎支部判決(2012年4月27日)では申請却下が認められ最高裁で確定しています。)、このような場合にまであえて契約の解除をしなければ取締役の善管注意義務違反とされたり、真っ当な社会的非難を受けるということは考えられません。金融機関の対応も同様ではないでしょうか。
 実は相手方が反社会的勢力とは何の関係もないということもありうるわけですから、そのような場合に解除することは相手方に全く責任のないことで著しい不利益を与えることになるわけで、そのような事情も考慮して解除しなかったことは合理的な判断であり、仮に、後日反社会的勢力と関係があったことが明らかになったとしても、取締役が善管注意義務違反と認定されることや、真っ当な社会的非難を受けることはありえないものと考えます(ネット等で「ためにする非難」はあるかもしれませんが)。
 一方で、そのまま放置していることはリスク管理上適切でないこともありうると思いますので、風評の信ぴょう性の程度その他の事情を総合的に勘案し、契約期間満了時に更新しない、契約期間内でも取引量を減少させていくという措置をとることが妥当な場合も少なくないと思います。ただしその場合でも、一定期間継続した取引であれば、いわゆる継続的取引契約の解消の問題として、解除、契約期間満了、更新拒絶につき信義則上「やむを得ない事情」があることを必要とする判例が多く出されていますので、猶予期間を十分に置いているか、法令違反その他のやむを得ない事情があるかどうか、相手方が中小企業かどうか、相手方の売上げに占める当該企業との売上げの割合が相当程度以上のものかどうかなどの事情を総合的に検討し、契約不更新が信義則上許されないと判断されることはないかという点について注意する必要があると思います。そのおそれがある場合には、十分な猶予期間を置くなど、信義則上問題とされることのないような対応が求められます。
 先に紹介した報道のとおり、警察が認定した事案ですら、裁判における立証にはかなりの困難が伴うケースもあるのです。この反社会的勢力の「認定」「立証」のハードルは企業にとってかなり高いものであり、無理に行うことが求められているものではないことも念のため申し上げておきたいと思います。
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