このサイトは、警察庁に23年間勤めた弁護士による、コンプライアンス、リスク管理、反社会的勢力対策などの企業法務と犯罪被害者問題、児童ポルノ問題など放置されている様々な社会問題について発信するサイトです。


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企業価値と株主価値ーJ&Jタイレノール事件、あるいは西武VSサーベラス事案から

企業価値と株主価値ーJ&Jタイレノール事件、あるいは西武VSサーベラス事案から
 このたび、「きんざい」から出版されました「実戦! 社会vs暴力団 暴対法20年の軌跡」に私の論文「暴力団等反社会的勢力からの企業防衛策の整備の必要性」が掲載されました。本論文は、反社会的勢力やグリーンメーラーら企業価値を毀損あるいは他のステークホルダーの利益を顧みない者(以下「企業価値毀損者」という)による株式の大量買占め事案や乗っ取り事案に対する企業の防衛策として、企業がこれらの者の議決権行使を認めない措置をとることができることや電気・ガス、鉄道、航空事業等公益的事業を営む企業に対して主要株主規制を導入することを提言するものです。  現在、西武vsサーベラスの事案が話題になっている折りでもあり、今後、これまでの買収防衛策や私の提言している防衛策の有効性、必要性について話題になってくるかもしれませんので、ご関心のある方はご参考にしていただければと存じます。2013年4月18日毎日新聞によると、サーベラスの西武に対するTOB問題を受け、小平、国分寺、東大和、東村山の4市で作る連絡協議会が17日、公共交通存続のための法整備などを求める要請書を鶴保副国交相に手渡した。要請書では①鉄道を廃止する場合は関係市町村の同意を必要条件にする、②株主の公共交通機関の持ち株比率に上限を設定するーなどとしている、とされています。この②は、私の上記提言と同様の趣旨のものと思われ、大いに議論されることを期待しています。
 さて、2013年4月、ライブドアの堀江氏が仮釈放されました。堀江氏は残念な事件を起こしてしまいましたが、起業家として若くから企業立ち上げ、発展させたことは並々ならぬ能力と努力の成果であり、今後の活躍を期待したいと思います。
 私は拙著「企業コンプライアンス」(文春新書)で、「(ライブドアについて)時価総額至上主 義というような目標を掲げ、実業の充実にあまり関心を払わないような場合には、その目 標を達成するために脱法行為や違法行為に手を染める危険性は、そうでない場合に比して 高いといえる。社会に意味のある価値を提供するという目的のないトップと集団がこのよ うな目標を掲げて活動すれば、実業でがんばるという意欲がない分、株価を上昇させるた めに法律すれすれの行為を行いかねない。さらには、違法な会計操作を行い、不正な証券 取引に手を出す危険性が高いことは否めないように思われる。」(「企業コンプライアンス」 18頁)と書きました。
 時価総額主義はこのころのIT企業を中心にかなり蔓延していたように記憶していますが、 時価総額主義は株価の上昇を目指すものであり、株主価値を向上させるものであって、お 前の主張はおかしいと言われたこともありました。
 企業の目指すべきものは、企業価値の向上なのか株主価値の向上なのか、企業価値とはなんなのか、これらは一致しているのか、今でもいろいろと議論されていますが、この点について考えるにあたっては、ジョンソンアンドジョンソン社の企業理念とタイレノール事件での対応が大いに参考となると思います。
 タイレノール事件とは、1982年に同社が販売しているタイレノールという解熱剤に何者 かが青酸カリを混入させ、7名が死亡したという事件ですが、この危機に当たり、同社は、 捜査機関等の反対を押し切って直ちに事件を公表し、タイレノールを店頭から全品回収し、 被害の拡大を防ぐ措置を取りました。その決定は、同社の企業理念である「我が信条」(Our Coredo)に沿い当然のものであると同社は説明していますが、同社の企業理念は、「第一の 責任は顧客に対するもの、第二の責任は社員に対するもの、第三の責任は地域社会に対す るもの、第四の責任は株主に対するもの、とされ、優先順位はこの順による。」というもの です。
 この企業理念に従えば、顧客の生命を最優先にする対応を取ることは当然ということに なり、結果として、優れた危機対応として被害を最小限にするとともに、同社への信頼は 益々高まり、同社の企業価値はさらに高まったのです。
 仮に、ある企業が、企業の目指すものは株主価値の最大化だという理念を持っていれば どうなったでしょうか。事件を公表し、製品を回収することは大変な減収減益になること から、株価の低下を懸念し、公表・回収が遅れ被害を拡大させてしまうこともありえます。
 そのようなことになれば、いずれ事案が明るみにでて、厳しい社会的非難と刑事・民事 責任が追及され、結果的に、株主価値はもちろん企業価値も大きく毀損することになります。(パロマ事件等も参考)
 ジョンソンアンドジョンソン社の企業理念とタイレノール事件での対応からわれわれが 読み取ることができることは、顧客を株主より優先させることは、結果的に企業価値、株 主価値を高めることになるということだと思います。この点につき、上村達男教授(早稲田 大学)は、

「企業価値とは企業が有するミッション、使命が実現することだと思います。そのミッションの実現に貢献するから、資金提供者は報酬として、配当や株価で報いられるのですね。これを会社は株主のものだから、要はすべての企業経営の目的は「俺に一円でも余計に払え」「俺のために株価を一円でも高くせよ」だというのは、会社と資本市場の関係を完全に見誤っていると思います。ですから企業は、その資本ないし株主の主張が、真にその会社のミッション実現に貢献するものであるかを、第三者の意見を聞きつつ判定する資格があるのですね。経営者は会社の定款の目的規定を実現することが法的責務として課せられています。これを無視して、すべての会社経営者は株主利益最大化のために仕事をするのがその職責だと主張するとしたら、それは定款違反行為の勧めでしかないのです。」(上村達男等「株式会社はどこへ行くのか」96頁)

とされています。
 この点について、私が畏敬する山口利昭弁護士のブログ(2013年2月14日)では、オックスフォード大学のメイヤー教授のインタビュー記事とダン・アリエリー氏の著作が紹介されています。
 メイヤー教授は、「株主価値の最大化は最優先の目的ではない。顧客の要求を満たす高性 能の製品を生むことが最優先であり、それを追及することで株主は相当のリターンを得ら れる。」(日経ビジネスオンライン2013年2月12日)旨主張され、ダン・アリエリー氏は 「株主価値の最大化に何よりも重きを置く企業は、こういった建前をかさに、金融に限ら ず、法律や環境まで、さまざまな不正行為を正当化できるのではないだろうか。そして企 業幹部は、報酬が株価と連動しているせいで、「株主価値」の向上にますます邁進するとい うわけだ。」と書かれています(「ずる 嘘とごまかしの行動経済学」233頁)。(これは上記 拙著に記載したわたしの考えと近く何となくうれしいです。)

 現在意見の対立が続いている西武VSサーベラス事案でも、この点が問題とされています。 長期にわたり経営をすることがないように思われるヘッジファンドが上場に際しての売り出し価格を上昇させるため(それは「(現在の)株主価値向上のため」ともいえるのかもしれませんが)、鉄道の不採算路線の廃止、球団の売却を求めているとすれば、どう評価されるべきなのか。少なくとも、顧客、沿線住民にとっては、死活問題であり(「路線存続へ自治体奔走」2013年4月13日日本経済新聞)、長期的に経営する意思のある経営陣が合理的な対策を講じてもなお維持が困難であるという事情があるのであればともかく、仮に高値で売り抜けるために(あるいは「現時点での株主価値を向上させるため」という言い方の方がよりスマートですが)不採算路線の廃止を求めるのであれば、顧客、地域住民の利益よりも、支配的株主、しかも長期的保有の意図のない株主の利益を優先するものという評価はありえるところだと思います。サーベラスは不採算路線の廃止や球団の廃止を求めていないと2013年4月に表明しましたが、報道によると、2012年10月12日付け、2013年1月11日付けのサーベラス社から西武HD宛に出された文書では求めている、少なくとも受け取った側ではそのように解さざるを得ないようにも思われ(2013年4月6日読売新聞、週刊ダイヤモンド2013/04/06、2013.3選択等)、もちろん真偽のほどは知る立場にありませんが、特に4月6日付け読売新聞によると、サーベラスは13年1月11付の文書では「西武は本レター(文書)及び従前のレターにおいて要点を示した措置を実施することを確約しなければなりません」と主張しているとされていますので、この点についてサーベラスからのさらなる説明が待たれます。

 私は、ライフワークとして、子ども虐待、児童ポルノ問題や犯罪被害者の権利の確立に取り組んでいますが(http://www.thinkkids.jp/)、これらの問題で企業に期待するところは極めて大きいものがあります。企業が目指すものは、企業価値の上昇なのか株主価値の上昇なのか、企業価値としてどういうものをとらえるのか、この問題はCSRや企業の社会的責任の在り方にも大いに関係するものとして(株主価値の最大化を求める立場からはこのような問題に協力することは余計なことだとされるのでしょうか)、今後とも考えていきたいと思います。
後藤コンプライアンス法律事務所
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