このサイトは、警察庁に23年間勤めた弁護士による、コンプライアンス、リスク管理、反社会的勢力対策などの企業法務と犯罪被害者問題、児童ポルノ問題など放置されている様々な社会問題について発信するサイトです。


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三笠フーズ事故米事件にみる政府の危機対応の在り方

 三笠フーズという米粉加工会社(大阪市)が、政府が輸入したいわゆるミニマムアクセス米のうち、かびのはえた、あるいは、残留農薬が一定限度を超えているなどのいわゆる事故米を食用として販売していた事件では、三笠フーズだけでなく他の多くの業者の無法・無責任ぶりが際立っていますが、農水省の危機対応のまずさも目立っています。その結果、本事件が発表されてから(9月5日)わずか2週間後の9月19日には、農水大臣と事務次官が辞任するという事態に追い込まれてしまいました。
 事務次官は、9月11日の記者会見で、「わたくしどもが責任があるというふうに、今の段階ではそこまでのことは考えているわけでない。」と発言しました。三笠フーズが悪いに決まっているのですが、悪いやつを捕まえるだけでいいのは警察ぐらいで、他の官庁は監督責任があり、行政責任を負っています。さらに、この事件では、農水省は5年間で96回立入り検査を行いながら、また、昨年1月には匿名の内部告発があったにもかかわらず不正を発見できず、さらに、無理な入札により三笠フーズに事故米を買ってもらっていたなどの事情があるのですから、「わたくしどもに責任があるとは思っていない」などと発言することは絶対にしてはなりませんでした。
 長年霞が関で役人をやっていた身からすると、昔ならこれで通用しただろうが、今の時代に通用するわけがないのに、との思いを記者会見にニュースを見ながら感じました。案の定、事務次官は辞任に追い込まれました。
 農水省に責任があることが明らかであるのですから(事務次官は本当にないと思っていたのかも知れませんが)、事務次官が記者会見で述べることは、農水省の責任を認め、事実関係を徹底的に調査し、原因を究明し、法律改正などの再発防止対策を策定し、責任者を処分する、という方針を表明することでありました。これは、企業不祥事が発覚した際に企業のトップに求められる対応であり、その詳細は拙著に記載していますが(「企業コンプライアンス」、「リスク要因からみた企業不祥事対応の実務」)、事務次官にはかかる対応は思いつかなかったようです。もちろん、最終的な対応には時間がかかるわけですが、少なくとも、当初の時点でかかる方針を説明し、おおまかな原因と再発防止対策の全体を示すべきであったでしょう。その後の報道を見ますと、輸入を一時ストップするとかなんやら小出しに対策を発表していますが、小出しにしてはインパクトもなく、評価されません。早期に、おおまかでもいいから包括的な対策を発表していれば、責任をもって再発防止に取り組んでいるという印象を与えることができ、これほどの信用失墜にはならなかっただろうと思います。
 それでは、包括的な対策は何かということですが、報道されている事項を前提にしたものですが、

○緊急あるいは一時的な対策
・ミニマムアクセス米の輸入の一時停止
・事故米の販売の中止
○制度的な対策
・農薬が残留している米など事故米を輸入しないような措置(輸出国の対策を含む)
・事故米の販売の中止または工業用のりを製造している業者に対してのみ販売
・監督官庁(農水省)以外の機関による(抜き打ち)立入り検査の実施
・加工米の表示制度
・プローカーなど米を扱う設備・組織などを有しない流通業者の排除
・人の生命、身体に危険を及ぼす食品を流通させた場合の厳罰化 などでしょうか。
 このようなことをできるだけ早期に発表し、それに向けてできるだけ早く動き実現する、ということが必要だと思います。遅れてしまいましたが、今からでもやらないよりやった方がいいに決まっています。
 本事件は、事故米だけでなく米の流通制度の問題(ブローカーのような業者の存在、加工米の表示制度など)、米にまつわる事業者の信じられないコンプライアンス意識の低さ、農水省の監督能力の問題、流通先の公表の在り方など様々な問題があったことが浮き彫りにされました。それぞれの問題について原因を解明し、それに応じた再発防止対策を講じる必要があります。
また、規制緩和により悪質な業者が入り込んだ可能性もあり、過度な規制緩和の問題点も見受けられます(証券取引法の改正で証券業者が認可制から登録制に代わったことから、不適切な業者が証券業に参入したことに似ています。)。規制緩和により、事前規制型社会から事後制裁・救済型社会にかわりましたが、事後制裁・救済型社会では、違法なことを行った企業に法的制裁が課せられなければ、世の中が持ちません。しかし、わが国で行われた規制緩和は、規制を緩和するのみで、違法を監視し取り締まることには法律の整備、監視体制の増強などいずれもノーケアであったように思います。証券市場ではそれが顕著であり新興上場市場でのむちゃくちゃぶりが大きな問題となっていますが、農業分野でも同じ問題があるのかもしれません。
 いずれにせよ、政府は、早急に、包括的な対策を提示して、国民に安全と安心を提供する必要があると思います。こういう問題が起こった場合、担当省庁の官僚は「じゃあ、次の通常国会に向けて法改正でもやるか」ぐらいの感覚でいて、これまではそれが通用していたのではないかと思いますが、いまは通用しません。スピード感をもって早急に解決に向けた包括的な対策をとりまとめて発表し、そのタイムスケジュールを示さなければなりません。
 そして、本問題の対策は農水省だけで策定・実行できるものではありません。厚生労働省、内閣府(消費者行政担当)、警察庁など関係省庁が多くあります。これらの関係省庁を束ねる内閣官房あるいは内閣府が早急にリーダーシップを発揮して、これらの対策を講じる必要があるのではないでしょうか。わたしは、内閣官房の安全保障・危機管理担当参事官を務めておりましたが、いまの事態は、国民の食の安全が危機に瀕しており、政府にとっても危機であります。政治のリーダーシップが必要なことは言うまでもありませんが、官僚がまずは迅速に対応しなければ事態は動きません。昨今いろいろ問題ばかり指摘されている官僚ですが、名誉挽回を期待したいと思っています。
 上記まで記した時点で、9月22日に、「事故米穀米の不正規流通事案に関する対応策緊急取りまとめ」が政府から発表されました。このような性格のものを9月11日に農水省の事務次官が発表していれば、政府の対応は評価されたと思いますし、ご自身も辞任される必要はなかったでしょう。当然のことですが政府も企業と同様にスピード感を持った取組が求められていることを如実に示した事例だと思います。
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